工場見学してきた

ゴールデンウィーク直前の今日、俺は就職活動で名古屋に来ていた。

もうこの頃になると理系修士の半分以上は内定をもらっているだろう。周りのM2達もGWに遊ぶ予定で頭いっぱいだ。俺が今日こうして乗っている飛行機にも旅行客でいっぱいだ。この時期に遊べていないのは社畜と俺達就活負け組だけかもしれない。

 でもお前もこれで最終なんでしょ?と思うのだろうが、実のところ今回の訪問は始まりにしか過ぎない。ただの工場見学だった。

 俺も流石になんの気もないわけで行ったわけではなかったが、思っていたよりわからされることがあった。具体的にそこらへんを今日は書いていく。

 

 まず、俺が訪問したのは工場だ。院生理系の多くは工場を持つ会社に就職することになるだろう。まあ、待遇の比較的良い工場に引っかからなかったら東京とかでSEやったりするのだろうけれど。俺は今までウェブで就職活動を進めてきたのだが、生で工場を見て初めて実感したことがある。匂いと音と人だ。工場は機械加工をするため金物と機械油のにおいが充満している。そして、金属が削れる音や圧縮空気の音が絶えず響く。そして作業を行っている職人さんや製造の方がいる。これが工場だ。

俺はもしそこに就職するとしたら技術分野であり、工場ではなくオフィスが主戦場になるのだが、やはり工場にはちょくちょく顔を出すらしい。オフィスも訪れたがPCの匂いが漂う無機質で清潔な空間だった。コーヒーの匂いの染みついた研究室のオフィスとはまた違っていた。

何が言いたいかと言うと、俺達はオフィスであれ工場であれ仕事をするための厳かな場所で仕事をしなければならないということだ。目的がただ一つに定まった空間でそのために他人と1日最低8時間こもる。職場の雰囲気とはそのようなものだ。ガンガンうるさくて金物臭い現場も、そこにいる人とも長く付き合っていかなければならない。それが職場なのだ。

 

次に、地方で働くということについて。俺が行った場所は名古屋から電車で30分程度の郊外だ。田舎ではない。でも、そんな丁度いい場所で働くのにも覚悟が必要だ。なぜか。職場にしか行かないからだ。暇な仕事ならともかく、月に残業が40時間もあるような会社なら会社と家の往復でしかないだろう。20時21時の仕事終わりに電車で30分のショッピングセンターに行こうとは到底思えず、車で15分の自宅かスーパーに行くだけで精一杯だ。そういう生活をお前はこれから何年もするんだぞ、そういわれた気がした。俺は正直郊外という生活スタイルを少し舐めていた。休日にお出かけしようにも街ではなく町。平日は郊外の自宅と田舎の工場の往復。明らかに覚悟が必要であることを俺は悟った。知っておくことと覚悟は違う。俺はメーカー希望と言いながらまだ覚悟できていなかったのだ。

 

次に専攻との関係について。今回俺が訪問したのは機械メーカーで、技術系社員の主な仕事はCADを用いた設計だ。機械設計の経験のみを必要とする。俺の現在の専攻である流体も、過去の専攻である音響も全く関係がない。今までは「流体と音響が関係なくても機械であればいい」と思って就職活動を続けてきたが、実際にCADだけをいじる設計現場を見て「どちらかは欲しい」と思った。なぜならば、CADをいじるだけなら誰でも可能だから。他の誰でもできることをなぜ自分がするのかという疑問だ。そして、そこそこ好きだった流体も音響も手放すのは少しもの悲しい。自分の専攻との重なりをもう少し俺は検討するべきだと感じた。また振り出しに戻るというわけではないけれど、専攻外が意味するものを知った上で次の会社探しにいそしまなければならない。

 

そして今回最も感じたのは、ある会社に勤めるということには覚悟が必要であるということだ。転職転職とよく言うが、結局どこかしらに骨をうずめなければ食っていけない。会社に勤めるということは、一日のうちの最低8時間とその間の精神を会社にゆだねるということだ。会社のために考える頭脳に切り替え、自分個人を最大限排除する、それが会社に勤めるということだ。これまで俺は会社に勤めるという行為を「小説が売れるまでの金稼ぎ」としか思っていなかった。バイトの週5バージョンとでもいうべきか。でも実際はそんな気分で会社に勤めていたらモチベーションがおそらく一年ももたないだろう。暇な事務職ならいざ知らず、男として技術職として働くのであれば働くという覚悟が必要に違いない。 俺はもっと兼業作家をするという覚悟を持って挑まなければならないかもしれない。

 

余談であるが、納得度合いについて。俺が今日訪問した会社は地元で有名な工場である。そして、入社する社員の出身大学も駅弁や私大が多い。果たして俺は一応宮廷理工系院生というカードを握りながら、そこで働くことに一生の納得がいくのだろうか。俺はまだその踏ん切りがついていないかもしれない。今のところ第一希望は自動車メーカーだ。社員も宮廷や早慶が多い。そういったところに一度就職した方が自分なりに納得がいくのではないかと工場を周りながら感じた。今まで大企業への逆張りとして俺はやや小規模な会社を受けてきたが、この戦略も見直すべきだろう。というか、人事の人にいつも「コイツ本当にウチ受けるんか?」みたいな半信半疑の眼で見られる違和感に萎える。人と違った就職先を選ぶには確固たる意志を持って挑まなければならない。人事の人も「とりあえず内定取りに来てるだろ」って視線でこっちを見るから。

 

 今回実際に職場に行って初めて感じ取ったのがこれらのことだ。地方の人間が就活に弱いと言われる理由が少しだけ分かった気がする。文面で把握するのと生で見てみるのは情報量がダンチだ。 百聞は一見に如かず。意外と見てみないとマッチングしているかどうかわかりにくい。意外とマッチしないもんだし。そして何より、覚悟を固められる。覚悟がなければ会社勤めは長続きしない。だから企業訪問は大事なのだ。

 

 これを機に文筆業の方も考えてみるか。趣味で文章を書くのは大好物だが、仕事で文章を書くことは果たしていかなるものか。やりがいという点では少しはマッチしそうではあるが。