就活掲示板は受験掲示板と同じ

 最近、修士就活の希望業種をIT系とやや大手~中堅機械メーカーに絞ってきたところだが一つ気になることがあった。メーカーの技術総合職は労働時間が長くて辛いという噂だ。おそらくこれは噂なのではなく明確な根拠がないだけの一般論というレベルで信ぴょう性が高い。だって完成しなきゃ、満足のいくものが出来上がらなきゃ、仕事になんないんだから。そんな簡単な論理の話は分かっている。俺は、口コミサイトに書かれている残業時間と現実の残業時間との間の違いや、働いている人間の生の声を聞きたいんだ。そう思って「メーカー 技術職 きつい」とか検索ワードを打ち込んでネットサーフィンを続けていると、就活掲示板にたどり着いた。

 スレのタイトルは「機械系修士の就活事情」だった気がする。スレッドの内容は主に”東大工学部院生の主な就職先”という(多分)東大が出している公開情報が叩き台になっていて、それを見た人達(学歴年齢不詳)がごちゃごちゃ言うといったものだ。

 俺は東大院生(と京大院生)のデータを見て「意外と安直に超大手メーカーに行くものなんだな」と思った。多分そのデータに記録する条件が「超大手企業」という条件付きであるためベンチャーとか中堅どころが全く載っていないだけなのだろうけれど。それでも、国内のえりすぐりのエリートが今日び先行き不透明で労働時間の長い日経メーカーに行っていることが疑問だった。おそらくこういうメーカーの労働環境は「福利厚生が手厚い薄給激務、役職持ちは億万長者」である(ソース不明)。役職持つまで続けるつもりなのかな。

 もちろん東大院生は外資コンサルに行く人達も多いらしい。この界隈に行く人はかなり野心の強い人達で、激務高給能力主義という弱肉強食環境のなかで己を磨いて独立等を考えているそうだ。そりゃこの国だと雇われは薄給で事業主がウハウハなのは端から見て明らかだしわかるかも。激務かどうかは置いておいて。

 以上のことから、デカイ企業で安定薄給激務を選ぶか外資コンサルで不安定高給激務を選ぶかが東大院生の選択肢だ、といった状況がスレ内に張られていたデータから読み取れた。ここまでで俺が疑問に思ったのは、持ち前の優秀さを楽に過ごすことに使わないということだ。もちろんガツガツ稼ぐ人達というのはアーリーリタイアを考えているのだろうけれど、それでも貴重な若者である己の時間と体力を訳も分からない残業地獄に費やすという選択をしていることは相いれなかった。もしかしたら世の中には中流家庭を維持する程の稼ぎができる会社がもうそんなにないのかもしれないけれど。年収400万時代なら仕方がないか。

 

 このスレで俺が感じたことはもう一つある。全体の雰囲気だ。このスレにいる人達は自分の学歴や年齢、社会人か学生かを明かすことは一切なく、ただ東大院生が就職した会社についての良し悪しを論じている。大手メーカー強い派と外資コンサルこそ最強派に二分してやいのやいの言い合っている(全員がここらへんに入る訳でもないのに)。俺は中堅メーカーの労働環境、採用事情を生で聞きたくてこのスレを開いたのにがっかりだ。みんな山の頂の話しかしていない。それにこのスレッドで話される超大企業の内部事情は口コミサイト等で見過ぎて食傷気味だった情報ばかりだ。スワイプする指を止め、タブを閉じた。

 就活スレは頂を目指す人が頂がどこにあるか話すための場であった。金を稼ぐ野心が際限なく高く、そのために就活に注ぐ努力を無限に惜しまない人達にとっては有益なスレだと思った。しかし、頭脳と手腕を使って楽に生きたかったり技術者を目指す人達に恵をもたらしはしないだろう。

 就活スレは受験スレと同じだ。高校生だったころ大学について調べた時に見つけたスレが受験スレだった。そこではランク付けがひたすらされるだけで肝心の研究や学校生活についての情報密度は低かった。これを見ても参考にならないとわかって俺はこのスレも閉じた。

 

 スレが教えてくれたことは、受験にしても就活にしても際限なく上を目指す人は結構多いということだ。向上心か虚栄心かわからないけれど、俺はそれについて行くほどの情熱もないただ怠惰な人間だ。いつか俺は多分小さな就職先で結局シコシコ残業しながら就活スレを覗いて「同じくらい残業して200万少ないのか俺の年収」とか呟くんだろうな。そういう人達が就活スレも受験スレも盛り上げているのかもしれない。