裁判見るのおもろい

 こんにちは

 今日は裁判の傍聴に行った。午前はTA(学生に授業教える仕事)があったので午後から友達と裁判所へ。1人で行くと感想戦ができないなと思って、ジャンルが大衆受けの逆をゆくものだが勇気を出して誘った。1人だけだったけど、来てくれる人いて良かった。

 

裁判所は案外行きやすい

 実は、裁判所に自分から行くのはこれが2度目である。先週、ふらっと裁判所に寄ったが「今日は傍聴できるやつないよ」と追い返された。その後、帰宅してから裁判所に電話をかけて次の刑事裁判の日程を聞いた。それが今日だった。都会だったら刑事裁判なんて1日に何回もあるのかもしれないが、俺の住んでいる片田舎では週に1度しかやっていない。母数の違いによるものだが、都会ほど目立った事件もなかなかやらないだろう(有名事件の裁判は定員あぶれが存在するらしいので、見れるかどうかわからない)。

 

 裁判の傍聴は無料でできるし、裁判所にも無料で入れる。予約もいらない。金のかからない映画館みたいなものだ。なんなら、途中入室や途中退室もしやすいから映画館よりラフだ。さすがに飲食はできないが。あとスマホやカメラが使えない。

 

 

意外な人が被告

 裁判所に到着したのは13:30頃で、既に昼以降の裁判が始まっていた。検察官が証拠についてブツブツ言っていた。

「タクシーのドラレコに暴行する姿が映っていた」

 検察官の言っていたことの要約。その後に被告が弁護人ゾーンから中央に移動し、弁護士とのQ&Aを始めた。っていうかこのヒョロい人が被告なのか。弁護士のアシスタントかと思ったわ。酔っ払った土建屋がチンピラに喧嘩吹っ掛けられてボコしたって言ってたから、もっとキツイ雰囲気の人かと思ってた。スーツを着て髪型を整えたら案外人の外見なんて変わらないものだ。テンプレートみたいな事件の裁判がこれから始まる。

 

 

優しい弁護士と厳しい検事、まとめの裁判官

 弁護士は被告に反省の有無や動機、2度目を起こさない対策などを柔らかい口調で訊いていた。事件の前後数時間のことしか訊かないと思っていたが、意外に本人の少年時代の余罪とか家族のこととか深堀していた。こうなってくると法廷に時間軸が追加され、ドラマができていく。被告にも若干感情移入できるようになってくる。

 一方、弁護士によるお涙頂戴が終わった後の検察官ターンでは、弁護士から既に訊かれた同じような質問をキツイ口調で訊かれていた。正確には、弁護士からの質問で被告があいまいな回答や適当な言い訳をした場合に、その穴をキツく責められていた。大体事件の特にヤバイポイントがこういったところに詰まっている。それにしてもこの検察官の口調はイラついた。だって周りみんな被告が敬語で話しているのに対してタメ口利いてるんだもん。こいつは被告人を同じ人間と思っているのか? 何かしら情報を聞き出すための話法なのかもしれないが、正直検察官の奢りにしか見えない。

 この応答で、被告の言い分は「飲み過ぎて判断能力が鈍り、喧嘩売られたのにキレてボコした。次からは酒量を抑えて冷静になる」だ。検察官は被告が社長の立場でこういうことしたのどうなん?と訊いていた。酒量で判断能力が変わるような元々の怒りっぽい性格自体に突っ込みを入れないんだな、俺は意外に思った。挑発されたらキレるだろ、という一般論か。

 裁判官は被告の言い分を再確認してまあOKか、って具合に裁判を進行させた。検察官から求刑が言い渡される。懲役1年。重いな。これに対して弁護士がコレコレこうだから軽くしてね、と裁判官に言う。そして、判決は来週へ持ち越し…と言ってこの裁判は終わった。

 あと、民事での示談金って高いのね。被害者の治療費を含めても200万って高い!ワープアには払えねえよ。幸い被告は土建屋社長だからよかったけど。俺はこれを通じて、暴力を振るわないことを心に誓った。いや、ロクに人殴ったことないけど。

 そして、もし人をボコす時は浴びるように飲酒した後にしよう。それか、情状酌量が見込めるくらい酷く追い詰められた時だ。司法は意外と喧嘩自体には甘い。多分一方的な暴力には辛い。

 

 

反論の余地なしの2件目

 1件目が面白かったのもあり、次の裁判も立て続けに見た。2件目は1件目と異なり、傍聴席にはメモを取る用意をした女性が1人いた。1件目は自分らの外には死にぞこないジジイしかいなかったのに。その理由はすぐにわかることになる。

 2件目の罪状は建造物侵入罪、窃盗。具体的には高校に入ってJKの私物盗んだ罪だ。この類の犯罪は希少性が高いため、地元紙に載る。そのため、今回の裁判も大小はわからないがどこかしらのメディアに載るだろう。多分メモの人はそれが目的だ。

 JK私物窃盗の目的は転売らしい。本当にそれだけか? まあ、ネットフリマで売買しているからそうなのだろう。検察から事件の概要を聞くところ、被告にしか非がない。初見の俺でも分かるくらいには明らかだ。キツイ尋問が始まろうとしていた。

 

 

貧困問題はこっちにも刺さるだろうが

 正直これは被告が100%悪いので、お涙頂戴成分自体はない。しかし、共感性羞恥を感じてしまう部分はあった。被告はどうしようもなく貧乏だったのだ。大学卒業後に都内の企業でライターをしていたが人間関係で辞め、実家に戻る。その後はフリーのエンタメ系ライターをしていたが月収は低く、安い時は月4万だったのだとか。収入は低かったが東京でホワイトカラーをしていたのもあり、この街でブルーカラーをする気にはならなかったそうだ。確かに俺だって長年のホワイトワーカーから急にブルーワーカー(おまけに片田舎だから安月給)は嫌だ。その気持ちはわかるし状況にも共感できる。

 そこで、被告は盗品転売を考えたのだそうだ。俺は「金儲けとしてイマイチじゃね?」と思ってしまった。案の定稼いだ額自体は通算2万円程度だったと後に述べていた。もはや趣味も入っていそうだが、案外フリーライターが兼業するなら忙しさもそこそこあるため、転売くらいしかできないのかもしれない。

 まとめると、企業勤めのライターでもないフリーライターはどうしようもない安月給だという事実と、この街にホワイトワーカーが働けるような環境がないという事実に俺は泣いた。

 

 

詰められ方に俺も泣きたくなった

 若手女性検察官とのレスバを乗り越えたと思っていたら、見逃されていた突っ込みどころを裁判官からぶっ叩かれた。客観的におかしな箇所は流石に看過しておけないのだろう、裁判官がグイっと詰める。

 

「この街で貧乏人は普通泥仕事するよね? なんでそれ避けて窃盗?」

「…ホワイトワーカーのプライドが許さなくて…ライター仕事はやりがいもあるし辞めたくなくて…」

「プライド持ちが窃盗?(即答)」

「…」

 

 ジ・エンド。俺なら多分本心である「泥仕事奴隷になってライター仕事もロクにしなくなるくらいなら窃盗した方がマシだ」と言ってしまうところだったが、こんな本心を言ったら判決も悪くなりそうだし何より全ブルーカラーを敵に回す。これに対して被告は急ごしらえしたであろう返答をする。

 

フリーライターは薄給で拘束時間長いから、考えている余裕なかった」

 

 もう少しいい構築ができたろ。傲慢な味方ではあるが、被告の頭脳がもう少し回転していれば…と俺は残念に思った。あの場に立っていたら気が動転して思うように口が回らないという気持ちも十分に分かる、わかったつもりではあるが。誰かに詰められたときは、少し考える時間を貰ってから口を開こう。相手を待たせる時間を合わせても、そっちの方が多少は有利な展開に出来る、かもしれない。

 

「なに言ってんの。そもそもフリーライターって暇でしょ」

 

「いやいや、一つの記事書くのにもね…。オマケにエンタメ系記事だから専門性も低くて薄給なんですよ」

 

 見え見えの穴はとりあえず放っておいて、被告の論に乗っかった上で突っ込む。それにしてもよく知りもしない職業に対して傲慢な裁判官だ。

 

「そもそもエンタメ系フリーライターって何? ゲームしながら金貰えるなんてみんなやりたがるじゃん。そんな供給過多の仕事が薄給なの当たり前だよね。っていうか本当にこんな仕事で食っていこうと思ったん? お前さ、楽して稼ごうとか思ってない? まずそういう考えが甘いんだよね」

 

「はい、私の考えが甘かったです。これからはライターバリバリにしつつ稼げないなら稼げないなりに職探しします」

 

「はあー。みんなさ、お金貰うために仕事頑張ってるんだよね。君もさ、いい加減甘い考え捨てて泥仕事しようね」

 

「…ハイ(半泣き)」

 

 泣きたくなるのもわかるわ。他のあらゆる困難を見て見ぬフリすれば、極論ゲームして感想書いて金貰える耳障りの良い職業だ。世間からの風当たりは強いし、デジタルディバイドされていることにすら気付けない片田舎民なら尚更だろう。裁判官の論破の仕方を理解することはできる。

 

 だが、共感はできない。俺はラノベやブログを書いている身としてこういう偏見による風当たりが強いことを悲しく思う。「公平」の象徴でもある裁判官にすらこういわれるんだ、もう世界中から舐められている仕事なんだなライターって。クソがよ。お前らも日頃からウェブや雑誌で活字読むんだったら恩恵が分かるだろうが。人に見せる文章書いたことがあるなら責任持って文章を書くことの大変さが分かるだろうが。職業に貴賎なしだと俺は思っているし、

 ライターの大変さはもういいとして、法廷の奴等は一度、この街でハロワ使って紹介された職で働いてみろよ。ホワイトカラーとの落差で死にたくなるぞ。食品工場や倉庫でヒューマン・マシンとして、安い機械のように扱われているのが現状だ。チャップリンキートン映画で労働環境が風刺されていた時代から変わっていない。そこんところの認識がズレてる上流階級だからこんな辛辣なことも言えるんだなって俺は思った。俺はハロワで職探しをしたことがあるし底辺層のネットにも入り浸っているから、少しくらいは地獄が分かる。まあ、この感覚は俺が底辺を見下しているという前提あっての意見だから、裁判長の言い分の方が一億倍正しい。この国はハロワに紹介された職場で働く非正規労働者に支えられている。ハロワ職が嫌だから犯罪しましたなんてのはハロワ職人口の多さから見て論外なのもわかる。「米買えないなら飼料米食えば? なんか食てる人そこそこいるらしいよ。俺はこんなマズいもの食わないけどね」っていわれてる感じ。さすがに俺の妄想が過ぎるか。

 

 

そして、裁判は終わり

 結局、先程の被告には懲役2年が求刑された。判決ではないから正味どうでもいい。しかし、検察官から言い渡されるこの言葉は重い。このまま判決にならないと分かっていても泣いてしまいそうだ。

 この裁判が終わった後、一緒に見た友達とミスド感想戦をした。一緒に遊びに行くことの醍醐味だ。誰しも主観が異なるからこそ、誰とこれをしても得られる情報があるし鮮度も大小の差はあれど存在する。概ね感想はあっていたが、やはり普通の人間寄りの友達には2件目の被告はクズで言い訳もロクにできないバカと呼ばれていた。まあ、金なくて窃盗転売する時点でその通りだ。少し擁護している俺でもそこんところは大前提だ。

 裁判の傍聴は誰かと行くことをオススメする。込み入ったストーリーは、人によって感想が異なるし、そのすり合わせは割と面白いからだ。

 

 最後に、今日見た裁判を通じて強く思ったことを書く。

 法律は守ろうとしなければ違反してしまうということだ。一見当たり前に聞こえることかもしれないが、法律違反を防ぐためには高い法順守意識が必要とされると書けば少し雰囲気が変わるだろう。思っていたよりこの世界は法律にガチガチに縛られていた。好きなことを考えられ、好きなように情報が収集でき、好きなように体を動かせる社会だから忘れられがちだが、やると罪に問われることすなわち迷惑になることは多い。今回の裁判のケースでは、酔っ払いのケンカだって法律違反だし母校に入ることも犯罪だ。どちらも創作物の世界ではノリでやりがちだし、リアルでも少し興が乗ればやってしまうことだ。そんな犯罪に対しても裁判所で「こんなことをしたらダメだって知ってたよなあ?!」と圧をかけられる。裁判所がコテコテ法律組織だからこういった印象が強く出たのかもしれないが。

 それでも俺には、法律より人同士の関係の方が大事なのではないかという意識が残っている。人付き合いでの揉め事を解決する手段が法律であり、あくまでも裁判は当人同士で解決できない時のお仕置き機関だから…という認識だ。がんじがらめの法律の網から脚が少し出るだけで即制裁、なんてのはむごすぎる。少なくとも俺が被害者になった時は「どうしてもコイツをお仕置きしたいか」を考えてから裁判を持ち出そう。加害者になった時は…何としてでも避けるように…できるのか? ともかく、全部裁判沙汰にしてしまう社会はキツイし、そうならないようもっとみんな仲良くなれるといいな。

 

 

 今日は書きすぎた。超面白い&感動する物を見ると筆が進む。